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下手なピアニストの見破り方
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大胆なテーマだ。
自分のピアノの実力を完全に棚に上げている。
だがジャズが詳しくない人にとっても、良質の演奏を聞きたいと願っているのは確かであろう。
「自分が楽しければ、それでいいじゃないか」
と反論する人もいるかもしれない。
しかしジャズはプレーヤーに相当の知識とセンス、練習を要求する音楽なのだ。
リスナーもプレーヤーの繊細な音楽性を理解できなくてはならない。
つまりジャズとはリスナーを選ぶ音楽なのである。
プレイヤーの演奏内容が分からない者には、聞く資格なんぞないのである....とまで言うと言い過ぎだが、リスナーにも最低限の理解力が必要だ。
ジャズの演奏の上手・下手というのは、アドリブが上手いかどうかという一点につきる。
ボーカルに関してはちょっと違うところもあるが、こと楽器に関してはテーマがいくら上手くても全然ダメなのだ。
プレーヤーには、
誰が聞いても下手くそなプレーヤー。
しかし自分の理解力が足りないだけで、実はすごく高い次元での演奏かもしれない。
このタイプだと判断しても、最初から罵倒しまくるのは避けたほうが無難だろう。
素人には受けるが、玄人には全く受けないプレーヤー。
この手のプレーヤーはとにかく弾きまくってテクニックを披露するタイプが多いのが特徴。
誰が聞いても上手なプレーヤー。
このタイプのプレーヤーの演奏を聞いているのが一番幸せなのだが、もしかすると自分の理解力が不足しているから上手く聞こえるだけで、本当は「素人騙し」なのかもしれない。
周りの人に聞いても賛否両論で、上手いのか下手なのかが分かれるタイプ。
この手のプレーヤーのライブを見に行くと「何をやっているのかはさっぱり分からなかったが、演奏はすごかった」という感想を得て帰ってくることが多い。
などのタイプがいるが、自分(リスナー)の理解レベルにも拠るので、一概にひとつのタイプに括るのは難しいだろう。
ジャムセッションでは色々なプレーヤーが入り乱れて演奏するが、その中でも
「やはりあいつは上手い」
と周囲に言わせるプレーヤーは確かにいる。
こういうプレーヤーは何が違うのだろうか?
わたしはピアノ以外の楽器には疎いので、ここではピアノを取り上げて「素人騙し」に引っかからないような方法を挙げてみよう。
よく「ぴょこ、ぴょこ」と跳ねたリズムでフレーズを弾くプレーヤーがいるが、こういう連中はまず間違いなく下手なことが多い。
例外的にビルエバンスは跳ねているが、彼は上手いと言えよう。
ウィントンケリーなども跳ねているように聞こえるかもしれないが、1つ1つの音が長いので(レガート)、こういう場合は「ぴょこ、ぴょこ」しているとは言わない。
もし「ぴょこ、ぴょこ」しているように聞こえるようであれば、自分の耳を鍛え直す必要があるだろう。
ジャズを演奏し始めてしばらくすると、「跳ねているのがカッコ悪い」と感じる時期が訪れる。
いわゆる「3連符の中抜き」(3連中抜き)というのがいかにも素人が考えたようなジャズのリズムに聞こえて、カッコ悪いと感じる訳だ。
この時期のプレーヤーは跳ねないようにと、無理に8分音符を均等(イーブン)に弾く傾向がある。
しかしそうは言っても実はイーブンで弾くのは、最初のうちは結構難しい。
ベースやドラムのリズムにつられてしまうからだ。
まずイーブンに弾けるようになるのはジャズの第一関門だが、またしばらくすると跳ねたフレーズも出てくるようになる。
跳ねていてもカッコ悪くないと気がつくのだ。
つまりジャズのリズムが分かってきた証拠でもある。
だから跳ねていないからといって、必ずしも上手いということにはならないので注意が必要だ。
他にも「枯葉」「テンダリー」などはオリジナルは3拍子だが、4拍子で演奏することがほとんどである。
ボーカル以外でこれらの曲を3拍子で演奏したいと言ってくるとしたら、セッション経験が浅いと言うことを意味する。
経験が少ないと言うことは、実力も言わずと知れたものだろう。
同じフレーズが何度も出てくるプレーヤーは下手だと考えていいだろう。
練習が足りないということが、すぐにバレてしまう。
フレーズの引き出しは、多いに越したことはない。
また初心者の中にはアドリブに何を弾いていいか分からず、コードの構成音だけをアルペジオのように並べる者もいる。
完全に間違っているとは言えないが、コードトーンだけではすぐに限界が来る。
もっとひどい初心者になると、1つのキーのペンタトニックで何でも演奏してしまおうというのもいる。
特にマイナー・ペンタトニック屋が多い。
この手の連中は、ほぼ例外なくロック上がりのギターで、自分がちゃんとアドリブができていると思い込んでいる。
ただしジャズではペンタトニックだけでアドリブができるような曲は、ほとんどないのが現状である。
だから演奏する曲も、マイナー・ペンタトニックが使えるようなものばかりである。
例えば「朝日の如く爽やかに」とか「ブルース」である。
いい演奏ができるかどうかが問題ではなく、自分がカッコ良く見えるかどうかが基準なのである。
ただしマッコイタイナーのようにペンタトニックを多用する名プレーヤーもいるので要注意である。
彼の場合は1つのキーだけではなく、近隣キーや遠隔キー、ペンタトニック以外のフレーズも散りばめている。
しかしマッコイタイナーをもってしても、最初の頃は批評家から酷評だったという事を忘れてはいけない。
他にも、例えばキーがCメジャーなら単純にピアノの白鍵だけでメロディーを作ろうと考える者もいる。
これはダイアトニック屋とでも呼んだらいいだろうか。
クラッシック出身の者にこの手が多い。
フレーズがないから、ダイアトニックの中から適当な音を選ぼうという考えからだろう。
これではモーツァルトの「音楽のサイコロ遊び」と何ら変わらない。
確率的に考えて、違和感が少ない可能性が高いのかもしれないが、ジャズのフレーズではないし、聞いていて楽しくない。
コンピュータにランダムに音符を選ばせたのと同じだ。
たいていの場合は、どんな曲を弾いても「ソー・ホワット」のようになってしまう。
一般にジャズプレーヤーは#が多いキーは苦手だ。
だが歌の伴奏(歌伴)ではDメジャー(#2個)、Aメジャー(#3個)といったキーもごくたまにある。
たいていの場合は、ボーカリストが演奏者の都合を何も考えずに移調した結果である。
このようなキーでボロボロになってしまうのは、上手いプレーヤーにもあるのは事実だ。
しかし少なくともGメジャー(#1個)、Cメジャー(#♭なし)、Fメジャー(♭1個)、B♭メジャー(♭2個)、E♭メジャー(♭3個)、A♭メジャー(♭4個)のキーはスタンダードの曲も多く、このようなキーでボロボロになってしまうようでは下手だと考えていいだろう。
歌、特に女性ボーカルのキーはインストゥルメンタル(通称インスト)で演るのとは違うキーになることが多い。
たとえば「オールオブミー」はインストではCメジャーだが、ある女性ボーカルではFメジャーになったり、また別のボーカルではGメジャーになったりする(E♭メジャーという人もいる)。
このためCメジャーでは問題ないのにFメジャーではボロボロ、というようなプレーヤーは、誰かのフレーズをコピーしているだけの可能性も考えられる。
ジャズのアドリブは、他人の演奏のコピーなど問答無用である。
アドリブは自分自身の表現の場なのだ。
アドリブが弾けなければ何の意味もないので、このようなプレーヤーは上手・下手を論じる以前に、ジャズマン(女性ならジャズウーマンか?)として失格と言える。
オスカーピーターソンは「酒とバラの日々」を意外なキーで弾いているが、インストゥルメンタルで演奏する場合には、普通は曲によってキーが決まっている。
「枯葉」はGマイナー、「朝日の如く爽やかに」はCマイナー、「コンファメーション」はFメジャーといった具合である。
ところが市販のジャズ譜面本の中には、変なキーで書かれているものがある。
初心者に配慮して簡単なキーに直したのかも知れないが、そんな譜面をジャムセッションに持ち込んでも笑いものになるだけである。
よくある変なキーとしては、「スターダスト」がCメジャーだとか、「ボディ&ソウル」がCメジャーとかがある。
実際にはプロのジャズミュージシャンは、「スターダスト」も「ボディ&ソウル」もD♭メジャーでしか演奏しない。
これは余談だが、譜面集のキーが有名なレコード録音と違っているのに、そっちのキーの方が定着してしまった例もある。
例えば、「クレオパトラの夢」はバドパウエルの録音ではA♭マイナー、「ウェーブ」はアントニオカルロスジョビンはDメジャーで演奏しているのだ。
ジャズのキーがどうやって決まったかは色々な要因が考えられるが、一つ大きく言えることは、たいていの曲は男性ボーカル用のキーになっているという事実だ。
このため男性ならそのまま口ずさみ易い。
逆に言うと女性ボーカルの場合は、ほとんど間違いなく違うキーに移調しなければならない。
たいていは4度か5度上げることになる。
ピアノではよく左手でコードを弾くが、「ちゃっ」と一瞬だけコードを弾くことがある。
これをコンピングと呼ぶことにしよう(注記:アメリカでの「comping」の意味は「伴奏」である)。これを入れるタイミング(リズム)はレッドガーランドでは、
のようになる。しかし下手なプレーヤーは以下のように入れることが多い。
コードが出てきてから、頭で考えてコンピングしてしまうため遅れてしまうのが原因であろう。
後者のリズムが間違いとは言わないが、前者のリズムがほとんど出てこないようであれば、まずその人は下手だろう。
これは「素人騙し」を見破るのに大いに役に立つ。
では以上のような観点で、騙されないようにジャズを楽しんでもらいたい。
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